押さえておくと開院後に失敗しないで済むかもしれない、美容クリニック開業時のポイントをゆるく解説していきます。
第1話はこちら

第5回は「物件探しのテクニシャンになる」の巻!



美容クリニックが大好きなわしが後悔しない開業方法を伝授するのじゃ
独立開業を目論んでいる美容クリニック勤務中の先生や一般人
美容クリニックに適した物件を探す
美容クリニック開業に商圏調査って必要?
リサーチ会社のコメントが必要なら調査レポートを買う必要があるかもしれませんが、そもそも美容クリニック開業に際して商圏調査はほとんど無意味だと思っています。



仙人特製googleマップじゃ


融資を受ける際の事業計画へ組み込む数値根拠としてのデータづくりはどこに頼んでも適当です。コスト圧縮を狙うなら自分で数値を組み立てて作成しても開業後に影響はありません。
美容クリニックに適した立地とは
「通いやすい」より「知り合いに会わない」物件を探す
美容クリニックの立地は「通いやすい」より「知り合いに会わない」のほうが上位条件になります。



知り合いに会わないけど交通が便利なところ
どの客層を狙うかによりますが、
- 東京であれば山手線の内側でメインの駅から「徒歩10分以内」と書ける場所にしましょう。
有名な建物の近くであれば少し遠くても構いません。集客だけでなく、後々の雇用においても「知らない場所」や「想像しにくい場所」はグーグルマップに頼れる今の時代でも敬遠されます。
地方都市であれば当然駐車場利用ができる物件がよいでしょう。
お客さんの美容クリニック選びで最も優先されるのは



ドクターの腕ではないのじゃ



腕なんて関係ないね!



メイン商材にもよるけどね
ドクターの腕!!と言いたいところですが最近はSNSの情報や価格が優先されることがほとんどです。



バナ皮ちゃんのInstagramで良いって書いてあったからー
が30代までのクリニック選定理由です。



ぜったい人任せにするでないぞ
ビルオーナーは基本的に強気である
実測面積と契約面積に大きな開きがある物件、最初はOKと言っていたことが契約間際にやっぱりNGになるなど、特に都心部のビルほどカタギの会社なのか謎な物件は沢山あります。逆に大手所有の物件は融通が利かないのでそれはそれで強気です。



ニュースで騒ぐほど景気は関係ないんじゃ
それを踏まえて足元を見られないように内見・交渉していくことが重要です。
美容クリニックに最適な物件探しのテクニック
開業する決意ができたら物件を探しましょう。
美容クリニックを受け入れてくれるビルは少ないので時間がかかります。
美容クリニックの物件探しに詳しい人が近くにいると人は珍しいと思いますので、不動産業に携わっている友人に紹介してもらいましょう。
不動産も名医と同じく少しでもツテがあったほうが有利になる業界です。



ネットで見つけた不動産屋は2~3回断ると提案がなくなるんじゃ
物件探しは運が悪いと半年近くかかります。でも必ず見つかります。でもそれは仲介業者次第かもしれません。
仲介業者は3社以上に問い合わせる
不動産業の知り合いがいないなら仲介業者は3社以上問い合わせましょう。
自社管理物件以外の不動産案件は共通DBから検索するので結果が違うことはあり得ませんが、検索のコツを知っている業者に頼むと掘り出し物が出てくることがあります。
また、希望エリアの調査をしっかりしてくれる仲介業者(=不動産屋)に依頼するとDB登録前の情報もキャッチしてくれるので、運が良いと居抜き可の物件と巡り合えるかもしれません。居抜き可でなくても居抜き交渉ができることもあります。
居抜きは使い勝手の面や原状回復条件などで良し悪しあるので100%おすすめできる方法ではありませんが、初期費用を1000万円以上圧縮できるのでミニマムローンチを希望するなら検討の価値があります。
- 面倒がらずに一社に絞らず複数の会社に同条件で問い合わせるか、希望エリアで開院経験のある知り合いがいれば仲介業者を紹介してもらうのがベストです。コンサル会社経由で探すのは1社で探すのと変わりません。
内見に行く
外からたくさん物件をチェックして、気に入った物件は中を見に行きます。
物件の中を見せてもらう行為を「内見(ないけん)」といいます。
中を見ても契約しなければならないと言うわけではないので、何ヶ所でも納得ができるまで内見を繰り返しましょう。



他にも希望しているお客さんがいるから早く決めないと取られちゃうよー
「他にも希望しているお客さんがいるから早く決めないと…」と、焦らせます。
大体の場合それは誇張された情報です。少しでも納得できない条件や、疑問に思うことがあれば内見の時やその後に全て確認しましょう。
断る勇気も必要です。
A工事 B工事 C工事ってなに?
物件の確認をする際に大切なのは水回りや空調です。
テナントの工事はビル指定業者を使う工事と自分で見つけた業者を使う工事のパターンがあります。また前者の場合は工事にかかる費用負担がビル側の場合と借り手側の場合があり、ビルによって範囲が違うので都度確認が必要です。A工事、B工事、C工事と呼ばれています。
これが工事費用や後々の維持費に大きく影響してきます。



A工事はビルの建物本体に関わる工事な!
業者の選定から発注、費用の負担まですべてオーナー責任で行います。
- ビルの外装、外壁
- 屋上
- 共用のトイレ
- エレベーター
- 階段
- 消防設備
- 排水設備
不具合があれば猛ダッシュで要望を入れると対応してくれます。
専有部でも相談するとA工事扱いにしてくれることもありますが、室内延長の給排水設備はB工事かもしれません。
施工業者はいつから絡むのか
よくわからないことが多いので、まずは信頼できる工事業者さんに内見に付き合ってもらい、その物件に何か問題がないかか確認してもらい、無駄な費用がかからないかを一緒に考えてもらった方が良いです。
内装業の知り合いがいれば物件探しの段階から付き合ってもらうのがベストです。無料で付きあってくれる業者もありますが、何度も長い期間付き合ってもらうかもしれないのでお礼は考えるべきです。値引き交渉をしない、同行費をきちんと払うなど初回の時にこちらからも誠意を見せましょう。



工事業者なんて知り合いがいないよ
そんな時はビル指定の業者を斡旋してもらうか、コンサル契約している会社があるならコンサル会社に紹介してもらうことになります。
ビル指定業者の場合、診療所の工事をしたことがなければかなり厄介です。
オフィスの工事と異なり、診療所開設には役所が絡むので経験のある業者に頼むのが一番です。
オフィス工事とは異なり診療所は工事未経験の業者に依頼すると自分が大変になるばかりです。
美容クリニックを開業するのに便利な物件は結果的に元美容クリニックだった物件、つまり「美容クリニックの居抜き物件」が一番お得です。
また、もともと貸主であるオーナーが美容クリニックに理解があるので他のビルよりも入居ハードルが低めです。
ただし、直前にいたクリニックが家賃を踏み倒していたり、契約違反などで心証が悪い場合もあります。
居抜き物件が見つかったら前向きに検討



手直し工事で希望にあえば最高じゃ
居抜き物件の良さは、入居のハードルが低いだけではありません。
美容クリニックは医療機関ですのでその開設のときには保健所への届け出が必要になります。
保健所は東京都であれば自治体にひとつはあるのですが「クリニックを開きますよー」と書類提出だけでは許してくれません。


工事前に必ず物件の図面を持って相談に行く必要があります。(業者がやってくれます)
その時に、同じ物件の前の借主が美容クリニックだと



あー〇〇クリニックのあったとこね
「あー〇〇クリニックのあったとこね」と、頭の硬い役人でもある程度すんなり理解してくれます。もちろんそれで手続きが早いかと言えば変わらないのですが。
運良く、自分の希望する地域に美容クリニックの居抜き物件が確保できて物件の契約書を取り交わして手付金を支払って引き渡し日が来たら、物件の鍵をもらうことができます。居抜き物件でない場合はスケルトン工事が終わってからの引き渡しとなります。
内見時・契約までの確認事項
以下に挙げる項目はすべて契約前に確認しておく方が良い内容です。他にも気になることは契約前に全部解消しましょう。



契約後だと一歩も譲ってもらえない可能性が高いんじゃ
- 予定しているクリニック名を念のためオーナーに打診してください
たまに起きる話ですが、借りる物件のオーナー(大家)さんがクリニックの名称にNGを出してくることもあります。「ビルのイメージにあわない」「街のイメージにあわない」という理由です。保健所がOKを出してもオーナーから断られたら元も子もないので、並行して許可を得ていきましょう。
- フロア借りの場合、エレベーターホールが共用部扱いの場合と専有部扱いの場合があります。契約面積に無駄がないか確認してください。
- 実寸してください。図面と乖離が激しい場合があります。
- 窓ガラスに外向きに掲示物が貼れるかどうか確認してください。別料金の場合や貼り付けNGの場合があります。
- 外看板の有無、ない場合の設置可否など希望に合わせて確認してください。
- 看板に書いても良い内容やイメージをヒアリングしてください。
外看板や1Fエントランス看板はビル指定業者が実施することが多いです。外看板の構造がなくても交渉次第で工事可能なこともあります。必要であれば契約前に交渉してください。また、掲出可能な内容を確認することも忘れずに行ってください。窓ガラスへのシール貼り付けは確認なく行うと怒られます。理由は熱膨張でガラス破損の危険があったり、広告掲出として捉えていることがあるからです。
- 内見までにおおよその最大使用電力量を積算してください。導入予定の機器スペック表に記載の数値は瞬間最大出力です。
- 契約可能電力量を確認してください。ビル全体で容量が決まっているので、割り当て可能な残量次第では別途引き込み工事が必要になります。(オーナーが許可しないこともあります)
- 200Vレーザー機器が多い場合は動力電源の有無、容量を確認してください。(電力だけで賄えることもありますが、動力がない物件は辞めておいた方が良いです。)
- 空調設備の有無、設置されている場合の移設可否、増設可否、その費用分担、工事分担など確認してください。電源・レイアウトや予算に影響します。
- 天井高を確認してください。古いビルだと天井高が低く設計に影響が出ることがあります。
- 床の状態を確認してください。オフィスフロアが良いこともあれば悪いこともあります。必要要件にあわせて交渉が必要になります。
- パイプシャフト(PS)の位置を確認してください。レイアウトに影響します。
- 構造柱(構造壁)・梁の位置を確認してください。図面に記載が無かったり位置が違うことがあります。レイアウトに影響します。
- トイレが共用部にある場合、専有部内に工事可能か確認してください。構造壁の工事が必要の場合断られることがあります。
借りたフロアすべての位置に簡単に水道設備が引けるとも限りません。水回りは、水道から出る水を確保だけでなく使った水を流す下水の設備も必要です。
それを確保するために、床を数10センチ上げる工事をする場合は費用がかなりかかるだけでなく漏水リスクや天井高がなくなる分、閉塞感がでるデメリットもあります。
- 残置物の確認・原状回復の条件を確認してください。退去時に予想外の支出になる場合があるので揉め事になり得ます。だいたい数百万円かかります。
- セキュリティ契約状況を確認してください。ビル全体で契約している場合や指定業者との強制契約の可能性があります。
- 入口ドアの装飾・交換可否を確認してください。意匠設計に影響するかもしれません。
- 消防設備の移設可否を確認してください。レイアウトに影響します。
挙げればもっと出てきますが、このぐらい気にしておけばそうそう後悔することはないかと思います。
そもそもここまで確認するには診療内容や部屋数、スタッフ数などがイメージできているはずです。
美容クリニック開業で失敗する人はこの確認ができない状態で物件を決めてしまう人です。
内見以外にも下見は必要
確かめる、と単に「見に行く」ではありません。
- 朝昼夜、平日土日、少なくとも10回はその物件を見に行ってください。
- 駅からの道順や外看板の位置、同じビルにどんなテナントが入っているのかもチェックしてください。
- 近隣に美容クリニックがあるかどうかも調べてください。そのクリニックに予約して、診察を受けてみるのもアリです。
有名な美容クリニックが何年も営業を続けているとしたらその場所は顧客が多い場所ともいえます。
そのクリニックが長年診療を継続できているということは、それなりの利益が出ているということなので、マーケティングの結果を利用させてもらうのも1つの策です。
図面を作ってもらう
物件の目途がついたら不動産屋に頼んで物件の平面図をもらいます。契約が前向きに進みはじめれば契約までも提供してもらえます。
それをもとに内装業者さんにクリニックの図面を描きはじめてもらいます。契約から開業までの期間を短縮するためです。
図面は何度か描き直しがききますが、「この図面は気に入らないからお金を払わないみたい」なことはマナー違反です。
必ずお金を払ってください。払わないとゴネるクレーマーが一人でもいると、業界全体のイメージダウンにつながります。
工事業者さんは、建築法や消防法に則って、診療所として許される条件での図面を書いてくれます。(中には抜けてる業者もいるので価格競争コンペはリスクがあります)
診療する側としては、なるべく廊下を狭くして各部屋を広くしたいところですが廊下の幅は法律で定められています。
また、プライベート感を保つため角部屋は個室にしたいところですが、天井部分まで壁があるとスプリンクラーの設置が義務化されていたりしますし、空調設備の関係で各部屋を細かく仕切れない場合も多々あります。
美容クリニックの居抜きでない物件の水回りはかなり注意が必要です
オペ室=手術室の定義はじつは図面上の名称だったりするのですが、手術室と書いてしまうと設備要件のハードルが上がります。
美容外科で手術をする部屋、いわゆるオペ室には必ず手洗いの場所をつけなければいけません。(美容皮膚科で手術をしない場合にはその義務はありません。)
他にもポイントはあります。
- スタッフの手洗いの場所と医療機器の洗浄するシンクは分けなければいない
- 美容皮膚科であっても医療機器を洗浄・消毒する場所、いわゆる消毒スペースは必須
- ほかにもあるよ
諸々の条件を加味し、どこにどの部屋を置き、どの部屋のどの場所に水回りが必要なのかを工事業者と考えます。導線をイメージしていないと、治療中に洗浄できないなどの図面ができることもあります。
物件は、しっかり確認したつもりでもあとから色々な問題が出てきます。
いくつか気をつけるべき点を書きましたが、少しでもリスクを減らすには物件選定には工事を依頼予定の業者に内見同伴してもらい、物件の賃貸契約前に図面を描いてもらいイメージが固まらなければ契約しない…くらいの覚悟が必要です。



図面代を踏み倒したらだめだからな!
美容クリニックの賃貸契約形態には種類がある



美容クリニック以外でも同じだよ!
物件を借りる際に交わすのが賃貸契約書です。
テナントを貸す側のオーナーさんには顧問弁護士が付いていることが多く、貸し手に有利な賃貸契約書の雛形を持っています。
既にあなたが何かビジネスをしていて、弁護士の知り合いがいたり顧問契約をしているようであれば契約書はそのままその弁護士にチェックしてもらってください。
契約書は貸し手に有利にできているので、予想外の制限があったり後々費用がかかることが発生するということもあります。



5年後にビルの解体が決まっていることだってあるんだよ!
さすがにビルの解体予定はあらかじめ不動産屋さんが教えてくれますが、一旦契約したら自分が退去したいときに自由に退去できるわけでもないので契約期間や退去に関する条件はきちんと把握しておきましょう。
美容クリニック開業のために物件を借りる賃貸契約(貸室賃貸借契約書)には必ず契約期間が定められています。
マンションなどを借りる場合は2年や3年の定期更新が多いと思いますが、クリニックなどのいわゆる「テナント」の場合には契約の形態が2種類あります。
普通借家契約と定期借家契約の2種類です。
普通借家契約とは
普通借家契約は、貸し手か自分のどちらかが契約を解除したいと言う申し出をしない限り基本的に契約が更新されていく、マンション賃貸と同じ形態のことです。更新の際には更新料がかかります。



お客さんが増えすぎて部屋が足りないの
といった景気のいい理由でクリニックの移転をしたい時は、契約書に定められた解約予告の時期さえ守れば中途解約で出て行くことが可能です。大体6ヶ月前の告知を求められることが多いです。
定期借家契約とは
定期借家契約の場合は、解約期間が満了するとそこで契約終了です。
もし定期借家契約の期間が5年と決められていたら5年後にはその物件を退去しなくてはいけなくなるのです。
5年かけてお客さんを集め通ってくれるようになったのに…です。
どんなに沢山お金をかけて内装工事をしていたとしても、クリニックが順調に診療していても、契約期間が終われば退去命令に従わなくてはいけません。
3年目あたりの業績を踏まえて退去しなくていいように交渉を開始し、運よく再契約ができたとしても普通借家契約のように更新料で済むことはありません。
契約更新とは違い再契約となるので保証金等が改めて請求されます。実際には、今預けているお金で相殺・補填するのが一般的ですが、まあまあ割高になります。
契約書に「退去するときはスケルトン(いわゆる現状回復して引き渡し)」と書かれていたら自分が高いお金を払って作ったクリニックはすべて空っぽにして退去しなければいけません。
壁や天井や床なども全て状態に戻さないといけないので、もし経営状況が悪くクリニックが潰れた時には、お金がないのにさらにお金がかかることになります。



お客さんが増えすぎて部屋が足りないの
定期借家契約においては一旦契約を締結したらその契約期間が終わるまでその物件は借り続けなくてはいけないので、どうしても移転増床したい時には家賃を払い続けて移転するしかありません。
契約形態は貸し手が決めるもの
そもそも物件の契約形態を普通借家契約にするか定期借家契約にするかを決めるのは貸し手です。借りる側には決める権利がありません。



だったら普通借家契約の物件を探せばいいじゃん
と思うでしょうが、場所や設備など条件の良い物件は大抵定期借家契約です。
その代わり家賃も少し安く設定されていることが多いです。



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